セルビア

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[セルビア]ムハメッドの夢の実現はすぐそこに Vol.03(2016.03)

Clothes for Smilesは、セルビアで、学校からドロップアウトしてしまう子どもたちを減らすユニセフの活動を応援しています。
今日は、その活動の恩恵を受け、夢をかなえようとしているムハメッドさんをご紹介します。

ムハメッドさんは、コミュニティで教育の大切さを伝え続けています。


セルビア南部のクラリェヴォ。「警官隊に入りたいんだ」と話すムハメッド・ジェセティさん(18歳)。鍛えられた体つきから、その夢は遠くないように思えます。でも、その夢を持ち続けるために、多くの困難を乗り越えなければなりませんでした。

ムハメッドさんは、クラリェヴォの郊外、トタンとむきだしのコンクリートブロックでできた壊れそうな家で暮らしています。馬車がわだちの深い道をガタガタ揺れてゆきます。ここの風景はロマの人びとが暮らす"取り残された"状況そのものです。

ムハメッドさんには、さらにないものがありました。家族です。両親も、3人の兄弟、2人の姉妹、誰もここにはいません。両親は弟たちとドイツで暮らし、ほかの兄弟・姉妹はどこかヨーロッパの街で暮らしています。ムハメッドさんは、クラリェヴォにあるジョルジェ・ラディッチ農業・科学高等学校を卒業するまでの間、おじさんと暮らしています。

ムハメッドさんが学校に残りたいといくら主張しても、両親はドイツに来るようにと強く言いました。ドイツに移るということは、教育も警官になる夢も手放すことを意味していました。
「本当に残念だけど、ロマの人びとの多くが教育がどれほど大事かを分かっていないんだ。説明するのは難しい。受け入れようとも、理解しようともしないんだ」とムハメッドさん。
彼自身は、学校を卒業することの意義に疑いはありませんでした。「学校へ行くことは本当に大事だ。ロマの子どもたちは、たいてい小学校にも行っていない。まして高校なんて。ぼくは本当に学校に行きたかった。高校を卒業して警察学校に入る、という目標があるからね」

それでも、ムハメッドさんが、家族からの圧力と自分の夢と、両方に対処することは難しいことでした。一時、彼は学校を3ヵ月離れ、ドイツにいる両親のもとへ行ったことがあります。しかし、目標をあきらめず、学校に戻ってきました。学校は、ムハメッドさんのような子どもたちが教育を修了し、ロマの多くの家族が陥っている貧困と社会からの疎外の悪循環を断ち切るためにも、必要な支援を提供することがいかに重要か、よく認識していました。

ジョルジェ・ラディッチ高校は、セルビア国内で2014年4月にはじまったドロップアウト予防のためのモデル事業に参加した10校のうちの1校でした。ユニセフは、ユニクロの資金支援のもと、現地のNGOや教育政策センター、教育省などともに、このプロジェクトを実施しています。このプロジェクトの目的は、特にムハメッドのような脆弱な背景を持つ生徒たちが学校からドロップアウトしないよう事前防止策を実施することです。

高校を修了することは、より給料の高い仕事に就くこと、より良い健康状態、より長い寿命などにつながります。一方、国としても、より多くの税金収入や、犯罪率の低下、健康な国民などにつながっていきます。しかし現在セルビアでは、高校を修了できるのは約半数にすぎません。

ジョルジェ・ラディッチ高校では、生徒から教職員まで学校全体がこのプロジェクトに関わっていました。保護者と教員の間の連携強化や、生徒間でのピア・サポート、学校生活における地元コミュニティの関与なども推進されました。教室では、生徒個々の背景や民族性に関わらず、だれもが歓迎されていると感じられました。

スヴェトラーナ・ムラデノヴィッチ校長先生は、プロジェクトを始めてから明らかな進展があったと言います。
「保護者との協力関係を強化しました、特にロマの子どもたちの教育の重要性について保護者に啓発しました。また、教員へのワークショップも行い、ロマの子どもたちに適した手法を取れるようになりました」

ムラデノヴィッチ校長先生は、子どもたちを教室にとどめる鍵は保護者だと言います。そして、プロジェクトの開始以降、Blue Flowerというロマのコミュニティ組織が学校と協力してくれることに大変感謝しているそうです。同僚の教員マルセラ・エスケナズィ・ミルティノヴィッチさんは、この組織が、ムハメッドさんが学校にとどまれるよう手助けしてくれたと話します。「ロマのコミュニティがムハメッドの両親を説得してくれないか頼みました。私たち自身の力では難しいとき、コミュニティの長が私たちとムハメッドをつないでくれたのです」

生徒会やその他の活動に参加したことで、ムハメッドさんは学校でも人気者になりました。


ムハメッドさんは、当初、学校になじめず、授業にもついていけず、差別があるとこぼしていました。学校は彼に、生徒会に参加し、ロマの生徒に対するみんなのしみついた考えを変えるためにピア教育を行ってみないかと促しました。
いまや、ムハメッドさんはみんなに受け入れられ、クラス長にも選ばれました。
「ユニセフが開いたセミナーで、教員は特に危ない状況下にある子どもたちに対しどのように対応すべきかを学び、ピアとなる生徒たちの相談者をアレンジしました」(ミルティノヴィッチ先生)

授業の面では、数学と物理の補習授業を行い、ドイツに行っていた間の遅れを取り戻す手助けをしました。もうすぐ彼は必要とする単位を取れそうです。
「学校が大好きだよ。友だちも授業も全部さ。コミュニティの人たちには、学び続けること、目標を持つこと、それから独立した教育のある人になるように、とアドバイスしているんだ」

ムハメッドさんにとって、このプロジェクトはすでに目標を達しようとしています。プロジェクトが完了すれば、これは国のモデルとなり、全国の厳しい状況下にある子どもたちが学校にとどまり、暮らしを改善してゆく基盤となっていくことでしょう。

今回のレポート担当:
Guy De Launey for UNICEF

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